訪問歯科診療、自宅や施設でも通院した時と同じレベルの治療は可能なの!?
そこで気になるのが、訪問歯科診療でどの程度の治療が受けられるか、ということではないでしょうか?今回は、訪問歯科診療で、どの程度の治療を受ける事が可能なのか、通院した場合と同等の治療内容が受けられるのか、ということについて解説していきます。
1.歯科訪問診療と外来(一般診療)との違い
1-1歯科医院に出向く必要がない
歯科医院のスタッフが患者さんの居住する場所に出向きますので、患者さんも、介護する方にも体力的な負担がかかりません。また、多く人が集まる待合室に行かなくてもいいので、ウイルス感染症のリスクも抑えられますし、何よりご自宅でリラックスして治療を受けられます。
1-2治療内容に限りがある
歯科訪問診療の場合、歯科医院の設備や器材を全て持っていくことはできないため、どうしても治療内容によっては限りが出てしまったり、治療内容が変更になる場合などにおいては、日を改めたりしないといけなくなったりする場合もあります。
1-3患者さんにより合ったアドバイスが受けられる
歯科医師や歯科衛生士が、患者さんの居住しているところを訪問することで、食生活や生活環境をある程度知ることができますので、患者さんの状況により合った治療やアドバイスができます。
また、介護する方にもお口のケア方法などについて詳しくアドバイスすることができます。
1-4治療費が多めにかかる
訪問歯科診療を受ける場合、治療内容に関わる保険点数は歯科医院で受けるのと同じですので費用も同じですが、それ以外に、歯科訪問診療料、介護認定を受けている方は、居宅療養管理指導料というものが別途かかってきます。
また、交通費や出張費がかかる場合もあります。これは、歯科医院によって対応が異なりますが、当院ではいただいておりません。
1-5治療を受ける歯科医院が限られる
外来で歯科治療を受ける場合、どの歯科医院でも治療を受けられますが、保険診療で訪問歯科診療を受ける場合、歯科医院から半径16キロメートル以内であることが基本的な条件となりますので、治療を受けられる歯科医院は限られてきます。
ただし、条件によっては16キロメートルを超えていても、保険診療で治療を受けることが可能となる場合もありますので、詳しくは歯科医院に相談してみましょう。
1-6診療チェアがない
訪問歯科診療では、歯科医院で座る診療チェアはありません。そのため、ご自宅のベッドや布団の上に、座るか寝た状態で行います。
2.どうやって自宅で治療を行うのか?
訪問歯科診療は往診とよく混同されがちなのもあるかもしれませんが、簡単な応急処置しかできないと思われていることがあります。
ですが、訪問歯科診療は往診とは異なり、本格的に歯科治療に必要な機材を持参して治療に臨みます。たとえば、基本的には次のようなものを患者さん宅へ持参し、多くの治療を可能にしています。
2-1ポータブルユニット
「ユニット」というのは、歯科の診療台のことで、そこには患者さんの座るチェアーの他に、歯を削るドリル、水を吸うバキューム、歯石除去のためのスケーラー、診療用のライト、風や水を出す3ウェイシリンジ、口を濯ぐためのシンクなどが備わっています。
ですが、訪問歯科診療の際にこの大きなユニットを丸ごと持ち運ぶということはできないため、必要最小限の設備を備えた、コンパクトで持ち運びが可能な「ポータブルユニット」を持参します。
なお、診療チェアはないため、治療はベッドや布団の上などで座位か仰向けの状態で行います。
2-2レントゲン
訪問歯科診療では、それ専用の持ち運べるレントゲン写真撮影の機材を使用します。
それを利用することにより、目では見えない歯根や骨の状態も確認が可能で、正確な診断、治療を行うことができます。
治療を行うスタッフは、歯科医師、歯科衛生士で、歯科助手がアシスタントとして同行することもあります。
3.訪問歯科の治療内容
ご自宅や入居施設であっても、歯科医院で受けるのとほぼ同じ治療内容を受けることが可能です。
たとえば、次のような治療が可能です。
3-1虫歯治療
虫歯を削って詰める治療、神経や根の治療が可能です。もちろん必要に応じて局所麻酔も可能です。
3-2歯周病治療
歯を失う1番の原因であり、高齢者の死因の上位を占める誤嚥性肺炎の原因となる歯周病の治療も可能です。歯周病の治療は、具体的には、歯の周囲についた歯石やプラークをきれいに落としていく治療となります。
3-3詰め物・被せ物の治療
詰め物や被せ物、差し歯が取れた、という場合にも、その場でプラスチックを詰めたり、型をとって、次の回に金属やセラミックを入れたりすることも可能です。
3-4抜歯
歯周病で歯がグラグラしている場合や、虫歯がひどい場合にも抜歯が可能です。ただし、難しい抜歯になる場合には歯科医院、もしくは口腔外科での抜歯が必要となることもあります。
3-5入れ歯治療
入れ歯が壊れた場合の修理、入れ歯が痛い、調子が悪い場合の調整、入れ歯の作り直しが可能です。
3-6口腔ケア・衛生指導
機械や器具を使ったプロによるお口のクリーニングを定期的に行うことも可能です。また、ご家庭での口腔ケア方法の指導をご本人、もしくは介護者の方にわかりやすく説明し、お口の健康をキープしやすいようにしていきます。
3-7摂食・嚥下リハビリテーション
摂食・嚥下機能に問題がある場合には、食事を食べやすくするための指導や、飲み込む訓練といったことも行います。
3-8定期検診
定期的なお口の健康状態のチェックを行うことも可能です。お口の健康を維持するためには、定期的な検診とメンテナンスが欠かせません。
4.訪問歯科でできない治療内容
訪問歯科では、歯科医院で行っている治療の多くが可能ですが、中には不可能なものもあります。それは矯正治療や高度な技術や設備を必要とする外科手術です。
このような外科手術に当てはまるものは、インプラント手術や歯周外科手術、再生医療、骨造成手術、歯の移植、埋伏歯(骨に埋まっている歯、親知らず)抜歯といったものが挙げられます。
特殊な口の粘膜疾患やがんといったもの関しては、通常の歯科医院であっても専門の口腔外科へ紹介する形となります。
また、ここに挙げた治療以外でも、患者さんの健康状態によって、できる治療、できない治療というのは変わってきます。これに関しては、必要に応じて医科の担当医と連絡を取り合いながら、患者さんのお体の状態を見て、最善の治療が行えるよう、その都度相談しながら進めていく形となります。
5.まとめ
寝たきりや要介護の状態になると、食事や排泄のことが最も重視され、お口の問題に関しては後回しにされがちな傾向があります。また、要介護の方は、うまくお口の問題を表現できない、ということも少なくありません。
ですが、お口の健康状態、衛生状態というのは、生活の質や栄養状態だけでなく、体の健康状態にも直接的に関わってくるものであり、決して侮ってはならないものです。
せっかく保険診療で受けられる訪問歯科診療というサービスがあるのですから、ぜひ、お口の問題を抱えている要介護の方、そうでない方も、この制度を大いに活用してみられることをお勧めします。
この記事の監修者
こちらの記事もおすすめ!