歯周病と胃潰瘍、胃がん、ピロリ菌との関係について

歯周病と胃潰瘍、胃がん、ピロリ菌との関係について
ピロリ菌というと胃潰瘍や胃がんを起こす菌というイメージがあるのではないでしょうか。
ですが、ピロリ菌は今や除菌することが可能で、1980年代後半から1990年前半にかけて本格的に除菌治療が開始され、現在では高い治療効果が確認されています。

しかし、なかには再感染を起こすこともあり、その原因が口の中、とくに歯周病からきている可能性が指摘されています。また、ピロリ菌はさまざまな口内トラブルを起こすことも分かっており、口と胃は切り離せない関係であると言えるでしょう。

一本の管でつながっている口と胃、口の中の環境を改善することで胃の状態も良くできる可能性があります。

くわしく見ていきましょう。

 

1.ピロリ菌と胃潰瘍・胃がんとの関係

1-1ピロリ菌とは

ピロリ菌は、正式名称「ヘリコバクター・ピロリ(Helicobacter pylori)」という細菌で、胃の内側の壁の中に生息しています。

ピロリ菌は酸素濃度が低い環境を好んで生存し、酸素に長時間さらされると死滅、また乾燥には弱い性質を持っているので、胃の中はピロリ菌にとって住みやすい環境だと言えます。

また、通常の細菌は住むことができない強酸の環境である胃の中でも、ピロリ菌は
自らが出す物質によってアンモニアを作り、酸を中和することができるので胃の中にずっと住みつくことができます。

なお、ピロリ菌の感染は免疫力や胃酸がまだ未熟な小児期までに、家族内など周囲の人から経口感染で起こるとされており、世界中で約半数の人が感染していると言われています。

 

1-2ピロリ菌が胃潰瘍や胃がんを引き起こすメカニズム

ピロリ菌の感染が長引くと、胃炎や胃潰瘍、十二指腸潰瘍、胃がんなどが発症するリスクが高くなると言われています。

ピロリ菌は一般的に、胃の下部に感染しやすく、ここでの感染が続くと、胃酸分泌を促進するガストリンというホルモンの分泌が亢進、胃酸が過剰に出るようになるので胃や十二指腸の潰瘍を起こしやすくなります。

もし感染が長期にわたってしまった場合、ピロリ菌の感染場所が胃の中央部や上部にまで広がり、炎症が続くことで胃粘膜の収縮や胃酸分泌の低下が起こり、結果的に胃がんリスクの増加につながっていきます。

 

1-3ピロリ菌に対する治療法

ピロリ菌の感染に対しては、除菌治療が行われます。
ピロリ菌が陽性の場合、除菌治療として胃酸を抑える薬と抗生物質が使用されます。
基本的には薬を7日間服用し、その後4週間以上経ったら再度検査を行って除菌がなされたかどうかの確認を行います。もしうまく除菌ができていない場合には再度除菌治療を行います。

一旦除菌治療が成功した場合でも、再感染することがあるので、その後もかかりつけ医の指示に従い経過観察を続けていく必要があります。

 

2.歯周病とピロリ菌との関係について

2.歯周病とピロリ菌との関係について

2-1ピロリ菌が歯周ポケットに住みついていることも

ピロリ菌を除菌しても再感染する原因として、歯周病が関係している可能性があるとも言われています。

いくつかの研究では、歯周病患者にはピロリ菌の存在率が高いことが確認されており、歯周病患者の歯周ポケット(深くなった歯茎の溝)にピロリ菌が見つかっていることが明らかになっています。

口の中は外から入ってくるものが最初に通過する場所。
周囲の人からピロリ菌が感染した際に最初に通るのも口の中です。
そのため、口内にピロリ菌が残っているとしても不思議はないですよね。

さらに、ピロリ菌は空気の少ない場所を好む性質があるので、空気の届かない深い歯茎の溝の中も、ピロリ菌にとっては住むには絶好の場所となり得ると言っていいでしょう。

 

2-2口内のピロリ菌が胃に落ちて再発している可能性

口内に住んでいるピロリ菌は、口内常在菌であるカンジダ菌の細胞内に入りこむため、通常であればピロリ菌に有効な抗生物質の薬が効かず、死に絶えることはありません

そして、そのようにして生き残っているピロリ菌は唾液や飲食時に胃の方に流れ、除菌した後の胃に再感染を起こす可能性があります。

「ピロリ菌の除菌をしたのにまた再発した」という方は、治療の失敗などということではなく、このような可能性も考えられることを念頭に置いておいた方が良いでしょう。

特に、歯周病の治療を受けていない、という方は歯周病による可能性も疑ったほうが良いかもしれません。

 

2-3ピロリ菌は口内の健康に悪影響を与えることも

近年の研究によると、ピロリ菌は口内の健康にも良くない影響を与えるということが分かってきています。

ピロリ菌は口内の細菌バランスを崩す可能性があり、その結果、虫歯や歯周病のリスクを高める恐れがあります。

特に、ピロリ菌は炎症性物質を放出するので、歯茎の腫れや出血を引き起こす可能性があり、歯周病にも大きく関係すると考えられます。

 

2-4ピロリ菌が引き起こしうる口内トラブルの例

ピロリ菌が口内で引き起こしうるトラブルとしては、次のようなものがあります。

◆歯周病
ピロリ菌は歯周病菌と共存して歯茎の炎症を悪化させる可能性があります。特に歯周病にかかっている人は、深い歯周ポケットにピロリ菌を定着しやすくするため、歯周病のさらなる悪化が懸念されます。

◆口内炎
ピロリ菌は炎症性物質を作り出しますので、口内の粘膜に口内炎を引き起こす可能性もあります。

◆口臭
ピロリ菌自体が口内細菌のバランスを乱すこと、ピロリ菌自体が揮発性の悪臭ガスを産生すること、そして胃が悪くなることで悪臭が生じることから口臭の悪化も起きやすくなります。

◆口腔カンジダ症
ピロリ菌がいることで口内細菌バランスが崩れ、カンジダ菌がはびこって口腔カンジダ症を発症するリスクがあります。口腔カンジダ症が起こると、口内にピリピリする白い膜が張る、口角が切れる、といった不快症状が現れます。

 

3.歯周病治療でピロリ菌除菌の成功率が高められる可能性

3.歯周病治療でピロリ菌除菌の成功率が高められる可能性

口と胃はつながっている消化器官ですので、切り離して考えられるものではありません。
腸内細菌環境も口内細菌環境と大きく関連しているということが近年では言われているように、口内の細菌環境というのはその下に続く消化器に影響を与えるものだということが言えるでしょう。

 

3-1ピロリ菌除菌の前に歯科で歯周病治療を受けておきましょう

もし消化器内科でピロリ菌が陽性と診断されて除菌治療を行うとなった場合、除菌の前にまずは歯科で歯周病治療を受けておくことをおすすめします。

もし歯周病治療を行わずに胃の除菌をしたとしても、口の中にピロリ菌がいる状態では、胃の中にピロリ菌を供給し続けることになりかねないからです。

また、歯周病は一度治療して終わり、というものではなく、適切なケアを行わなければ再発し、悪化していくものですので、歯周病の悪化を防ぐためにも、ピロリ菌を増やさないという意味でも、定期的なケアをすることが欠かせない、ということも覚えておきましょう。

 

4.まとめ

 

以上、ピロリ菌が胃や口内に与える影響についてご紹介しました。ピロリ菌の及ぼす影響は多岐にわたり、さまざまな不快症状や痛みを起こすだけでなく、命にまでかかわってくるものです。

ピロリ菌への対処法としては除菌療法が一般的に知られていますが、実は口内ケアをしっかりと行い、口内環境を改善していくことも効果的、かつ必要事項だと言えるでしょう。

口内の健康状態は胃や腸など消化器系器官だけでなく、全身のあらゆる臓器にも影響してきます。毎日の歯磨き、定期的な歯科でのケアはまさに体の健康を保つために欠かせないものであると言っても過言ではありません。

ぜひ皆さんも全身の健康維持のためにも意識して取り組んでみてください。

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この記事の監修者

医療法人幸美会 なかむら歯科クリニック 理事長・院長 歯科医師 中村 幸生

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