インプラント手術後に神経麻痺が起きる原因とリスク管理

インプラントの手術の後に、「唇やあご先の感覚がビリビリとしびれた状態になる」、こういった現象が起こることがあります。
インプラントは失った歯を取り戻すために、あごの骨に人工歯根を埋め込み、その上に歯を建てるという優れた治療法ですが、とくに下あごにインプラントを埋め込む場合にこのようなことが起こるケースがあります。
今回は、このようなインプラント手術後の神経麻痺がなぜ起こるのか、そしてそれを防ぐために歯科医院がどのようなリスク管理を行っているのかを、できるだけわかりやすくお話ししていきます。
1. インプラント手術後の神経麻痺とは?
1-1. 麻痺が起こる部位と症状
下あごの骨の中には「下歯槽(かしそう)神経」という、歯や歯茎、下唇、あご先(オトガイ)の感覚を伝える太い神経が通っています。
インプラントを埋め込む場所がこの神経に近く、インプラントを埋める際にこの神経や、その枝である「オトガイ神経」に近づきすぎたり触れてしまったりすると、下唇やあご先、歯茎などにしびれや感覚の鈍さ、ピリピリとした違和感が生じることがあります。
腫れや赤みなどとは違い、感覚の異常は見た目や検査で分かるものではないので、患者さんご自身が気づいて教えてくださることが早期発見の大きな手がかりになります。
関連ページ:インプラント手術後の腫れはいつまで続く?ピークはいつ?
1-2. 一時的な麻痺と長期化する麻痺の違い
神経が一時的に圧迫されただけであれば、時間の経過とともに回復していくことがほとんどです。たいていの場合、数週間から数か月ほどで感覚が戻ってくるでしょう。
一方で、神経そのものに傷がついてしまった場合には、回復までに時間がかかったり、感覚の異常が長く残ったりすることもあります。
手術後の痛みや腫れは通常数日から 1 週間程度で落ち着いてきますが、神経の再生はとてもゆっくりなので、数か月以上症状が続くことも珍しくありません。
関連ページ:インプラント術後の痛みはいつまで続く?原因やピーク時の痛みの程度、痛み対策についても解説!
2. 神経麻痺が起こる主な原因

神経麻痺が起こる主な原因は次の 3 つです。
2-1. 神経に近い位置へのインプラント埋入
下あごの骨の厚みや高さが十分でない部分にインプラントを埋め込もうとすると、神経が通る管(下顎管)に近づきすぎたり、ドリルやインプラント体が神経に接触してしまったりすることがあります。
骨の状態は患者さまごとに大きく異なるため、術前に精密に診査し、一人ひとりに合わせた慎重な計画が欠かせません。
2-2. 術前診査・診断の不足
神経の位置や走行のしかたは人によって異なり、平面的なレントゲン写真だけでは骨の厚みや奥行き、神経の正確な位置といったものを知ることができません。
立体的な情報を把握できる CT 検査を行わずに手術を進めてしまうと、神経までの距離を十分に確認できないまま埋入することになり、神経を傷つけてしまうリスクが高くなります。
参考:あなたの歯科インプラントは大丈夫ですか-なくならない歯科インプラントにかかわる相談-(独立行政法人国民生活センター)
2-3. 麻酔や腫脹・血腫による圧迫
インプラント手術時に神経そのものを直接傷つけていなくても、手術後の腫れや内出血(血腫)が神経を周囲から圧迫することで、一時的なしびれが生じることもあります。この場合は、腫れが引いていくにつれて症状も自然に改善していくことが多いです。
3. 神経麻痺を防ぐためのリスク管理にはどのようなものがある?
3-1. CT 撮影によるシミュレーションと安全域の確保
かつては、二次元的なレントゲン写真の情報のみを頼りにインプラント手術を行うことも多かったですが、それでは神経を傷つけるリスクがどうしても高くなってしまいます。
それを防ぐためには、インプラント手術前に CT 撮影を行い、神経が通る位置までの距離を三次元的に正確に測定、そのうえで、神経から一定の安全域を確保してインプラントの長さや埋入位置、角度を計画します。
シミュレーションの結果、骨が足りない場合には、「短いインプラントを使用する」、「埋入位置を調整する」、あるいは「他の治療法を検討する」など、無理をしない選択も大切になります。
3-2. デジタル技術・ガイデッドサージェリーの活用
近年では、CT データをもとにコンピュータ上で神経の位置や骨の状態を確認しながらシミュレーションを行い、専用のガイド(サージカルガイド)を使って、あらかじめ計画した位置・角度・深さの通りに正確にインプラントを埋め込む「ガイデッドサージェリー」も広まってきています。
ガイデッドサージェリーを行うことで、シミュレーションで計画した位置に正確にインプラントを埋め込むことが可能となり、神経損傷のリスクを下げることができます。
関連ページ:「インプラントって怖い」は昔の話?デジタル技術が変えた手術の安全性
3-3. 術中・術後のこまめな確認を怠らない
手術中にも、必要に応じてレントゲン写真で神経までの距離を随時確認しながら進めることや、術後に感覚の状態を丁寧に確認していくことも、万が一の麻痺を早期に発見し、すみやかに対処するために欠かせないプロセスです。
4. もし神経麻痺が起きてしまったら?

手術後に神経麻痺が起こってしまったら心配に感じてしまうかもしれません。
ですが、通常は徐々にでも改善していきますので、焦らず経過を見ていきましょう。
4-1. 担当歯科医師に相談、経過観察をしていく
術後にしびれや感覚の異常を感じたら、自己判断で様子を見すぎず、できるだけ早く担当の歯科医師に相談してください。
原因や程度によって対応は異なりますが、早期に適切な処置(炎症を抑える薬剤や神経の回復を促す薬の投与、必要に応じたインプラントの位置の見直しなど)を行うことで、回復の可能性を高めることができます。
参考:治療中・術後のトラブル対策(公益社団法人日本口腔インプラント学会)
4-2. 改善までの期間の目安
改善までの期間は状況によっても異なりますし、回復の速さには個人差もあります。
一般的には、軽度の圧迫による麻痺であれば、数週間から数か月ほどで改善することが多いですが、神経そのものに損傷が及んでいる場合には、回復までに半年から 1 年以上かかることもあります。
いずれにしても 焦らず、定期的に経過を確認しながら様子をみていくことが大切です。まれに、麻痺が長期化し、他の治療との兼ね合いを含めて再検討が必要になるケースもあります。
関連ページ: インプラントの再手術が必要なケースとは?失敗する 6 つの原因と後悔しない歯科医院の選び方
5. まとめ
インプラント手術後の神経麻痺は決して珍しいことではなく、多くの場合が一時的なもので、回復にある程度長くかかっても改善するケースがほとんどです。
とはいえ、事前の CT 検査による正確な診断や、神経までの安全域を確保した埋入計画、そしてデジタル技術を活用したガイデッドサージェリーなどによって、そのリスクをできるだけ減らすことは可能になってきています。
もし手術後にしびれや感覚の違和感を覚えた場合は、我慢せずに早めに歯科医院へ相談するようにしましょう。そうすることで原因をいち早く突き止め、適切な処置を受けることで早めの回復が期待できます。
当歯科医院でも、患者さまが安心してインプラント治療を受けていただけるよう、最善の策を尽くし、一つひとつの手術に丁寧に向き合っています。
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