高齢者のむし歯・歯周病によるリスク

高齢者のむし歯・歯周病によるリスク
歳をとるにつれて体の機能は衰えていき、さまざまな部分に不調を感じやすくなります。それはお口の中も例外ではなく、唾液の減少や歯のすり減り、歯根の露出、免疫力の低下、自分で口腔ケアがむずかしくなる、といったさまざまな理由からむし歯や歯周病のリスクが大きく高まります。

また、高齢者のむし歯や歯周病は、お口の問題だけでなく、全身の健康を危険にさらしてしまう恐れもあるという点においても注意が必要です。

そこで今回は

・高齢者のむし歯・歯周病の特徴
・高齢者のむし歯によるリスクとは?
・高齢者のむし歯・歯周病対策

についてご紹介します。

ご家族に高齢の方がいらっしゃる方はもちろん、高齢時の歯のトラブルは、若い頃からのお手入れも関係しているので、若い人も早めに対策できるよう、ぜひ今回の内容を参考にしてみてください。

 

1.高齢者のむし歯・歯周病の特徴

 

1-1歯周病が悪化しやすい

歳をとるにつれて、唾液の分泌が落ち、お口の中が乾燥しがちになっていきます。唾液はお口の中を洗い流す働きや免疫にもかかわっていますので、唾液が減ると細菌が繁殖しやすい環境になり、若い時と比べて歯周病が悪化しやすくなります。

また、歯周病は多くの場合、30代や40代頃に始まっていることも多く、その後じわじわと進行して60代、70代を過ぎてから重症化するというパターンも多く見られます。

 

1-2歯茎が下がって歯根部むし歯が起こりやすい

歯周病は歯を支えている骨を破壊し、それにともなって歯茎も下がっていきます。
歯茎が下がると、それまで歯茎に覆われていた歯根がむき出しになってしまいますが、歯根の表面には歯冠(もともと歯茎に覆われていない部分)にあるような硬いエナメル質がないため酸に弱く、お手入れが不十分だとすぐにむし歯ができてしまいます。

 

1-3詰め物や被せ物の内部にむし歯ができやすい

歳をとるほど、あちこちに詰め物や被せ物など、治療跡が増えていきます。
このような人工物はだんだんと劣化していきますので、年数が経つほどむし歯が再発しやすくなります。

 

1-4入れ歯の金具周りのむし歯や歯周病が起こりやすい

高齢者になるほど入れ歯を使っている人が増えます。
部分入れ歯の場合、金具が歯にかかりますが、その部分に歯垢が溜まりやすいため、むし歯や歯周病にかかることがよくあります。

 

2.高齢者のむし歯・歯周病によるリスクとは?

2.高齢者のむし歯・歯周病によるリスクとは?

高齢者のむし歯や歯周病は口内の問題だけでなく、全身の健康状態にも影響を及ぼします。たとえば次のようなリスクを高めてしまうことがあります。

 

2-1心疾患や脳梗塞

口内のケアが適切になされておらず、歯垢が溜まってむし歯や歯周病ができる状態になっていると、歯周病で出血した場所から歯周病菌やその産生物が血管の中に入りこんでしまうことがあります。

そうすると、血管を狭くしたり、血栓を作ったりすることで心筋梗塞や狭心症、脳梗塞といった病気につながることがあります。

 

2-2誤嚥性肺炎

肺炎は高齢者の死亡原因のトップを占める病気です。肺炎と言うと、風邪やインフルエンザなどをこじらせて起こると思われがちですが、高齢者の場合、反射機能の衰えや、飲み込む力が弱くなることによって唾液や食べ物が気道に入ってしまい、その結果、細菌感染を起こす場合が多く見られます。

むし歯や歯周病がある場合、その原因菌が唾液とともに肺の方へ流れ、肺炎を起こすリスクが高くなります。

 

2-3糖尿病

歯周病の原因菌である歯周病菌は炎症性物質を放出し、それが血管の中に入りこむと、血糖の調整を担うインシュリンの働きを邪魔するということが指摘されています。

つまり、歯周病にかかっている状態を放置していると、インシュリンがうまく働きにくくなるため高血糖状態となり、糖尿病にかかりやすくなったり、悪化しやすくなったりすると考えられます。

そして、糖尿病になってしまうと、血糖値が高くなることで、免疫に関わる白血球などの細胞が働きにくくなるため、免疫力が下がってしまいます。

歯周病も感染症ですから、結果的に歯周病がさらに悪化する、という悪循環に入ってしまいます。

 

2-4認知症

むし歯や歯周病で歯が痛んだり、もしくはそれらの病気が原因で歯が抜けてしまったりしてしっかりとものを噛めなくなると、噛む刺激が脳に伝わらなくなるため、認知症にかかりやすくなると言われています。

また、歯周病を放置していると、アルツハイマー型認知症のリスクが高くなることも分かってきています。アルツハイマー型認知症は、脳内部にβアミロイドと呼ばれるたんぱく質が溜まることで起こると言われていますが、このβアミロイドは歯周病菌にかかると増えることが分かっているのです。

 

2-5転倒から寝たきり

むし歯や歯周病によって歯を失い、適切な治療を受けない、もしくは合わない入れ歯を使っていると、しっかりと噛むことができなくなります。

しっかりと安定して噛めない状態では体幹が安定しませんので、転倒しやすくなり、そこから寝たきりにつながってしまうことがあります。

 

2-6栄養障害

むし歯や歯周病で歯が痛いと、食事がうまくできずに食事が偏るなど、栄養障害による虚弱も起こりやすくなります。

 

3.高齢者のむし歯・歯周病対策

3.高齢者のむし歯・歯周病対策

3-1歯磨きの仕方を見直す

歯磨きをしていてもちゃんと磨けている人はそれほどいません。意識しないでただ歯に歯ブラシを当てているだけでは、同じところに磨き残しが出てしまい、そこからむし歯や歯周病になってしまいます。

歯磨きがきちんとできておらず歯を悪くしてしまう人は実は多くいます。
正しく磨くことができれば口内の健康リスクの悪化をかなり予防できますので、まずは歯科医院でブラッシング指導を受けて正しい磨き方をマスターしましょう。

要介護の方の場合は、介護する方が歯科医師や歯科衛生士に正しい歯磨きの仕方のアドバイスを受けておくことをおすすめします。

 

3-2口内が乾かないようにする

高齢者の唾液分泌が落ちるのは仕方のないことですが、それに加えて糖尿病などの病気を持っている人が増えること、そして持病のために複数の薬を服用している場合には副作用による口内の乾燥も加わるため、さらにリスクが増します。

そのため、意識して口内が乾かないようにしていく必要があります。
具体的には、水分補給をこまめに行うこと、できるだけよく噛み(ガムを噛むのも効果的)、よく会話して唾液腺を刺激すること、それでも乾き気味の場合には保湿効果のある口腔ケア用品を使うといった方法もあります。

 

3-3歯科で定期メンテナンスを受ける

歯科に行くのは歯の調子が悪くなった時、という人も多いかもしれません。
ですが、歯の調子が悪くなった時にはすでに事態がかなり悪化していることが多いものです。

できるだけよい状態を保ち続けるためには、定期的に検診を受けて早期発見・早期治療ができるようにしておくこと、そして歯のクリーニングを受けることでむし歯や歯周病の予防をしておくことです。

要介護の方で通院が難しい方は訪問歯科サービスもありますので、歯科医院に問い合わせてみるとよいでしょう。

 

4.まとめ

 

高齢になると、唾液分泌の減少や持病、薬の副作用などさまざまな要因により、口の中が乾き気味になることから、歯の周囲の汚れがどうしても蓄積しやすくなってしまいます。

また、歳をとると体が不自由になって歯がうまく磨きにくくなっていきます。
その結果、むし歯や歯周病が一気に悪化しトラブルが起きやすくなること、それに加えて全身の健康上の問題が起こりやすくなります。

実際に体の病気は口内環境の悪化から起こっていることも少なくありません。
そのため、健康のためにも高齢者の方はお口のケアを特に意識して行っていく必要があります。

高齢者の方、高齢者がご家族にいらっしゃる方はぜひ参考にしてみてください。

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この記事の監修者

医療法人幸美会 なかむら歯科クリニック 理事長・院長 歯科医師 中村 幸生

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